金縛り
ヘブンはここのところ、毎晩のように金縛りにあって寝不足でした。トキは、お祓いをしてもらったらどうかと思うものの、「お祓い」をどう伝えたらいいのかわからずうまく説明できません。錦織が迎えにこなくなったことにヘブンは戸惑っていましたが、トキもまた伝えたいことを伝える手段がなく、困っていました。
ある日、錦織が松野家にやってきました。ヘブンの「通りすがりの人間だ」という言葉にがっかりして、それから距離をおいている、自分も深く関わらず学校だけでの付き合いにしようと決めた」などと言います。
トキは錦織に「お祓い」は英語で何といえばいいのか、と問いました。ヘブンが金縛りで飛び起きた朝、トキは錦織に教えてもらった書き物を読み上げました。

れっつごーつえくそしずむ

Oh!イク!シマショウ!
怪談
生徒の正木の家が檀家になっているお寺でお祓いをしてもらえることになりました。錦織がいないので、通訳として正木と、トキが付き添うことになりました。お祓いは松平家ゆかりの大雄寺で行われ、団扇太鼓・鐘を鳴らす儀式を見てヘブンは興味津々で面白かったと喜びました。ヘブンが上機嫌なので住職も気をよくして、寺に伝わる「怪談」を聞かせてくれると言いました。怪談と聞いて、トキは大喜びです。ヘブンも「kwaidan」なるものを聞いてみたくなりました。住職は墓地へと案内しながら話し始めました。
水飴を買う女
「この大雄寺の東側に小さな飴屋があったそうで…」
ある夜のこと、店じまいをしようかという時刻に青白い顔をした女がやってきて、一文銭分の水飴を買っていきました。
その女は次の夜もやってきて、また一文銭を出して水飴を買っていきました。
次の夜も、また次の夜も夜な夜な女はやってきました。女は顔色が悪く、銭を受け取る時にふと触れた手は氷のように冷たいのでした。
店主は女の様子がどうも気になって、そっと後をつけていきました。
すると、とある墓地に入っていった女はそこですうっと姿を消しました。女が消えたあたりに行ってみると、まだ新しい墓石があり、その墓の下から赤ん坊の泣き声が聞こえるではありませんか。店主が墓を掘り起こしてみると、女の遺骸に抱かれて泣く赤ん坊がいたのでした。そばに水飴があります。水飴を買いに来た女に違いありません。
その女は子を腹の中に宿したまま女は亡くなり埋葬されましたが、棺桶の中で赤ん坊は生まれていたのです。女は夜になると三途の川の渡し賃の6文銭を1文ずつ持って、6日の間飴屋で飴を買い、赤ん坊に与えて育てていたのでした。渡し賃を使ってしまうと三途の川を渡れず成仏できないかもしれないのに、我が身のことよりも大事な子を思っての母心でした。不憫に思った飴屋の店主は赤ん坊をひきとり育てました。やがてその子は人の恩を知り、恩に報いる立派な僧侶になったということです。
このお話は「水飴を買う女」「水飴を買う幽霊」「子育て幽霊」などと言われ、よく知られている怪談のひとつです。
ヘブンの涙
話を聞いたヘブンはすすり泣いていました。

カイダン、スバラシ!
モット、アリマスカ?
と聞きたがりましたが、住職はほかには知らないので、松江の人たちに聞いてみてはどうかと言いました。帰宅して、トキは言いました。

怪談ようけ知っちょります。
ようけようけ知っちょります。話、できます!
ヘブンは喜んで聞こうとしました。トキが「本邦諸国奇談集」を手に読もうとすると、本を読むのではなく、トキの考えや言葉で語って聞かせてほしいと頼みました。承知したトキは本を閉じ、襖や雨戸を閉め部屋を暗くし、ろうそくに火を灯して「鳥取の蒲団」という怪談を語り始めました。語り終えたトキがろうそくをふっと吹いて消します。ヘブンは半分も言葉がわからなかったにもかかわらず、オモシロイと言います。ヘブンはもっと聞きたいといい、話を聞いては涙ぐみ感動しています。トキはいくつもいくつも話して聞かせるのでした。トキとヘブンの間には、二人だけに通じる世界観ができあがっていきました。
ラストピース
錦織は正木からヘブンが怪談を聞いて、泣くほど感動していたことを聞き驚きました。「怪談が気にいったようで」という正木の言葉に「ラストピースか…」とつぶやく錦織でした。
あの日以来、トキは夜になるとヘブンに怪談を語って聞かせるようになりました。ゆっくり、日本語で、夜更けまで何度も何度も同じ話を繰り返し聞かせました。

アナタノ、カンガエ、アナタノ、コトバ、スバラシ!
カイダン、アリガト、ゴザイマス。
錦織はトキを訪ね、怪談がヘブンのラストピースになるかもしれないから、ヘブンに怪談を聞かせてほしい、と言いました。トキはもうすでに毎晩、語って聞かせていると答えました。
「つまり、君が怪談を語れば語るほど、滞在記は完成に近づき、ヘブン先生は松江を去る日が来ることになる」と言いました。その言葉を聞いたトキは現実を突きつけられたようにハッとします。女中としての仕事がなくなることだけではない、ヘブンがいなくなる寂しさを感じたのでした。
そんなトキの元に銀二郎からの手紙が届きました。
第13週

